その1「平棚栽培は、生食用ブドウ栽培の技術だから
日本のワイン用ブドウ栽培では、平棚栽培より垣根栽培の方が高品質のブドウになる。」
多くの垣根栽培では、樹勢が強すぎ生育バランスを崩しています。
垣根栽培と平棚栽培の理論的違いは、垣根は一定の樹冠を維持しながら樹勢をコントロールするのに対して、
平棚栽培は樹勢を維持するため樹冠を拡大させます。
健全な生育をしていれば、大きな差は生まれません。垣根栽培で樹勢がコントロールできるのはバランサー理論しかありません。
土壌、土質よりも肥培管理、樹冠管理により品質は大きく変わります。
その2「ブドウの葉は、小さいほどよい。」
ブドウの葉は、樹勢が弱いほど小さくなります。日本では、生育期間中に高温多湿になるので、どうしても大きめになり、蒸散を促し体内の温度を上げないようにします。
また、光合成の能力が最大になるのは、やや大きめの葉で、最も光合成能力が高いのは、成長点周辺の若い葉だと言われています。
葉の大きさよりも葉の厚みが葉緑素の量や能力に関係するので、単純に葉数だけで、収量を決定するのは、非科学的です。
節間の幅と葉の大きさは、ほぼ比例します。健全な生育をしていれば、垣根栽培でも平棚栽培でも葉の大きさは、ほとんど同じくらいになります。
結論、外国の産地に比べやや大きめの葉になる事が必然であり、健全である。
その3「ブドウの根は、大地に深く入るほどよい。」
生育期間中に十分(時には、過剰)な水分がある本州では、ほぼ地下1m以内に根を張ります。
土壌条件によりその深さは変わりますが、養分吸収に最も重要な細根、微細根は、地表5〜20cmぐらいに多くなります。
植物の根は、今までの常識以上に多くの酸素を必要としていることが分かっています。
団粒化構造がしっかりしている土壌が好ましいのは、保水性、排水性という半ば相反する条件を満たすことと一定量の酸素を供給できるからです。
そうした環境では多様な微生物など多くの命が存在しています。つまり、液相、固相、気相の三層構造が重要になります。
その上で、ブドウは吸肥力が強く耐乾燥性も強いという特徴を持っています。
生育期間中水分が少ない地域では、地下水脈近くまで深く根を張り巡らせますが、
日本では地下部は、強酸性土壌なので深く入り込むことはありません。
苗木は、浅植えが基本です。土壌条件により根は、自らが求める最適な深さに入り込みます。健全であれば、浅く広く細い根が広がります。
その4「収量調節すれば、糖度の高い良いブドウになる。」
日本では、ブドウ農家がワイナリーに原料ブドウを供給することが多く、
1kgの単価が決められているため収入を増やすためには、収量調節をあまりしたがらないので高品質なブドウが生産されずワインの品質も高くない。
収量調節をすれば良いブドウになるはずである。
もし、事実であれば、自社農場のブドウを収量調節することで画期的なワインが大量にできることになります。
単純に収量調節することで、高品質なワインができるのなら100年前に世界的な産地になっていたことでしょう。
収量調節は、剪定、萌芽率、芽かき、花芽形成、開花前の摘房、結実後の摘房、ベレーゾン前の摘房、ベレーゾン後期の摘房など
生育ステージによる摘房の度合いで決定されます。
生育ステージに合わせシンクとソースの関係から水ストレスをコントロールしながら最適な収量に導き、
樹勢をコントロールすることで樹冠を維持します。これをバランサー理論と私が名付けました。
樹勢、樹相、樹齢、一房重、一粒重、土壌、地力、降水量、気温などの条件でも収量と品質は変化します。
その5「日本の栽培技術レベルが低いから、良いワインは造れない。」
日本の農業全般を見ても栽培技術レベルが低いから国際的競争力に劣り自給率が低いということを指摘する人がいます。
これは、実際に従事したことのない評論家的視点からの意見でしょう。
ブラジルなど南米や米国での日系人の農業界での多くの成功を見ても資質と技術力の高さを示しています。
世界一美味しく、美しい果物を育てる技術を持っているのは我々です。
生食用ブドウ栽培の技術も世界一だと思います。しかし、ワイン醸造用ブドウ栽培の技術については多くの問題があります。
詳しく説明しませんが、これには歴史的な問題と栽培研究の早い段階から育種以外の方策はないという誤った判断をしたことの弊害でもあります。
つまり、育種以外の栽培研究が蔑ろにされてきた結果が今の現状でしょう。
一方、生食用ブドウ栽培も同じ発想からスタートしましたが、お金になる作物ということもあり栽培研究も育種開発もほぼ同時に発展しました。
ワイン醸造用ブドウ栽培研究は、乱暴な言い方をさせていただければ昭和初期でほぼ停止していたと思われます。
生食用ブドウ栽培の中でも、露地でヨーロッパ系品種の栽培技術を持ち合わせている農家が少なく、
同時にワイン醸造用ブドウ栽培の技術研究にその技術を融合させることもなかったからです。
日本のブドウ栽培技術は生食用は素晴らしいが、一般的にワイン用にはまだ多くの課題があります。